東京地方裁判所 平成6年(ワ)3398号 判決 1997年1月30日
主文
一 原告らの被告丙川一郎に対する土地明渡請求について
被告丙川一郎は、原告らに対し、別紙第二物件目録1ないし8記載の各建物を収去して、別紙第一物件目録記載の土地を明渡せ。
二 原告らの被告東京丁原建設株式会社及び被告東京丁原ホーム株式会社に対する建物退去等請求について
1 被告東京丁原建設株式会社及び被告東京丁原ホーム株式会社は、原告らに対し、別紙第二物件目録1ないし3記載の各建物から退去せよ。
2 被告東京丁原建設株式会社及び被告東京丁原ホーム株式会社は、原告らに対し、別紙第三物件目録1記載の建物を収去せよ。
三 原告らの被告株式会社戊田に対する建物退去等請求について
1 被告株式会社戊田は、原告らに対し、別紙第二物件目録4ないし8記載の各建物から退去せよ。
2 被告株式会社戊田は、原告らに対し、別紙第三物件目録2記載の建物を収去せよ。
四 原告らの被告丙川一郎に対する不当利得返還等請求について
1 別紙第一物件目録記載の土地に関する原告らの被告丙川一郎に対する主位的請求(不当利得返還請求)を棄却する。
2 別紙第一物件目録記載の土地に関する原告らの被告丙川一郎に対する予備的請求(賃料相当損害金等支払請求)につき、
(一) 被告丙川一郎は、原告甲野二郎及び原告丙川竹子に対し各三二七万二二三六円、原告乙山秋子及び原告丙川夏子に対し各二一八万一四九一円並びに右各金員に対する平成六年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告丙川一郎は、原告甲野二郎及び原告丙川竹子に対し各七九七万六三〇一円、原告乙山秋子及び原告丙川夏子に対し各五三一万七五三四円並びに右各金員に対する平成八年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 被告丙川一郎は、平成八年六月一日から、別紙第一物件目録記載の土地の明渡し済みまで、原告甲野二郎及び原告丙川竹子に対し各月額二八万六六九五円、原告乙山秋子及び原告丙川夏子に対し各月額一九万一一三〇円の割合による金員を支払え。
五 原告丙川竹子の被告丙川一郎に対する建物明渡請求について
被告丙川一郎は、原告丙川竹子に対し、別紙第四物件目録2記載の建物を明渡せ。
六 原告丙川竹子の被告丙川一郎に対する不当利得返還請求について
1 被告丙川一郎は、原告丙川竹子に対し、九一万一八五七円及びこれに対する平成七年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告丙川竹子の被告丙川一郎に対するその余の不当利得返還請求を棄却する。
七 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。
八 この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
理由
一 当事者(請求原因1)について
請求原因1の事実は、すべての当事者間で争いがない。
二 原告らの太郎遺産土地等の所有(請求原因2)について
請求原因2の(一)及び(二)の各事実は、すべての当事者間で争いがない。これによれば、本件審判及び本件決定により、原告甲野及び原告竹子が各一〇分の三、原告乙山及び原告夏子が各一〇分の二の割合で本件土地を取得し、原告竹子が第四建物、第五土地及び第六建物を単独で取得したことが明らかである。
なお、被告一郎は、昭和四九年秋ころ、太郎から太郎遺産土地等の贈与を受けた旨を主張する。しかしながら、被告一郎は、本人尋問においても右贈与の事実について明確な供述をしておらず、本件審判に先立つ調停段階で提出した被告一郎作成の回答書においても右贈与の主張をしていない。しかも《証拠略》によれば、被告一郎は、太郎遺産土地等について、現在に至るまで自己への所有権移転登記手続をしようとしたことはなく、その固定資産税及び都市計画税を支払ったこともない、などの事実が認められる。右の諸点に照らせば、被告一郎の主張に係る贈与の事実を認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠もない。したがって、被告一郎の右贈与の主張は、採用することができない。
三 被告らの本件土地の占有など(請求原因3)について
1 請求原因3(一)(被告一郎の本件土地の占有)の事実は、原告らと被告一郎との間で争いがない。
2 請求原因3(二)(被告丁原らの本件土地上の建物の所有など)の事実は、原告らと被告丁原らとの間で争いがない。
3 請求原因3(三)(被告戊田の本件土地上の建物の所有など)の事実は、原告らと被告戊田との間で争いがない。
四 被告一郎の第四建物部分の占有(請求原因5)について
請求原因5の事実は、原告竹子と被告一郎との間で争いがない。
五 使用貸借(被告一郎の抗弁)について
1 前記一ないし四の各事実に《証拠略》を総合すると、次の各事実が認められる。
(一) 太郎が死亡するまでの事実経過
(1) 太郎は、昭和三一年二月一五日ころ、換地前の本件土地(東京都世田谷区《番地略》畑一〇七四平方メートル。昭和四八年三月一日に分筆されて九四一平方メートルとなり、換地処分は平成二年五月三一日に終了した。)を訴外丁川竹夫から買い受け、これを畑として使用するなどして農業を営み、他に地代収入も得ていた。
(2) 太郎は、昭和三二年一二月二三日に原告竹子と婚姻し、同三三年ころ、第四建物を新築して、原告竹子、甲田(同一七年九月生まれで当時一五歳)、被告一郎(同一九年六月生まれで当時一三歳)及び原告夏子(同二二年一月生まれで当時一〇歳)らと共に、右建物で居住していた。
(3) 太郎は、昭和三三年五月、交通事故による受傷のため右足を大腿部から切断する手術を受け、同三五年一月ころまで入院し、退院後は次第に農作業に従事しなくなり、本件土地も放置するようになって、地代収入や所有不動産の売却金などにより生計を維持していた。
(4) その後、甲田は昭和四二年に婚姻し、原告夏子も間もなく第四建物を離れ、それぞれ太郎と別れて生活をするようになった。
(5) 被告一郎は、大学を卒業した後の昭和四四年四月から同四七年二月ころまでは訴外株式会社戊原屋に勤務し、同四八年九月ころからは丙川商事不動産の名称で不動産業を営み、二九歳となった同年一〇月に訴外甲川冬子と婚姻し、そのころから太郎と別れて生活をするようになった。
(6) 昭和四九年ころから以降は、太郎と原告竹子の二人が第四建物に居住していたが、同五七年八月二〇日に太郎は死亡した。
(二) 被告一郎による本件土地のうちの南側部分の使用状況
(1) 被告一郎は、訴外有限会社乙原工務店(以下「乙原工務店」という。)に対し、本件土地のうちの南側の一部を、昭和四九年ころから約二年間賃貸し、更にその返還を受けた後の同五一年一〇月二九日、訴外株式会社丙田(以下「丙田」という。)に対し、本件土地のうちの南側部分の約九〇坪を一時使用の目的で、賃料は月額一五万円、期間は同年一一月五日から二年間、賃借地上の建築物は簡易で除去が容易なものとするとの約定で賃貸し、丙田は、右土地上に平家建の建物一棟を建築し、これを事務所及び寄宿舎として使用していた。
(2) 被告一郎は、丙田から右土地の返還を受けた後の昭和五三年九月二三日、訴外丁野建設工業株式会社(以下「丁野建設」という。)に対し、訴外株式会社戊山組(以下「戊山組」といい、丁野建設と戊山組とを併せて「丁野建設ら」という。)を連帯保証人として、右土地を一時使用の目的で、賃料は月額一七万円、期間は同年一〇月一日から二年間、賃借地上の建築物は簡易で除去が容易なものとするとの約定で賃貸し、丁野建設らは、右土地上に二階建の建物二棟を建築し、これを寄宿舎として使用していた。
(3) 被告一郎は、昭和五五年九月三〇日に右賃貸借契約の期間が満了して終了したことを理由として、同五七年二月ころ、丁野建設らを被告とする建物収去土地明渡請求訴訟(東京地方裁判所昭和五七年(ワ)第一三一一号建物収去土地明渡請求事件)を提起し、同六〇年五月三一日、全部勝訴の判決を得た。これに対して、丁野建設らが、東京高等裁判所に控訴したが、昭和六一年一〇月二九日、被告一郎と丁野建設らとの間で、被告一郎が丁野建設らから丙田及び丁野建設らの建築に係る建物三棟を買い受け、その代金の支払は、丁野建設らの同五五年一二月一日から同六一年一〇月三一日までの間の賃料相当損害金の未払分と相殺して清算すること、丁野建設らは被告一郎に対して右建物三棟を同六三年一〇月三一日限り明渡すこと、丁野建設らは被告一郎に対して同六一年一一月一日から右建物三棟の使用料相当損害金として月額二〇万円を支払うこと、などを内容とする訴訟上の和解が成立した。
そして、被告一郎は、昭和六一年一二月一六日、右建物三棟についての保存登記をした。右三棟の建物のうち丁野建設らの建築に係る二棟の建物が、本件建物1及び2に該当する。
(4) 被告一郎は、丁野建設らから右建物三棟の返還を受けた後の昭和六三年一二月一五日、被告丁原建設に対し、被告丁原ホームを保証人として、右三棟の建物を、営業所として使用する目的で、賃料は月額八〇万円、期間は同年一二月一六日から二年間、契約の更新は二年毎に四回までとし、賃借人は賃借建物周辺の土地を建物使用の必要に応じて使用することができることなどの約定で、賃貸した。右賃料は、平成二年一二月からは月額八四万円、同四年一二月からは月額八八万円へと増額された。
被告丁原らは、右賃借後現在に至るまで、本件建物1、2及び被告一郎の所有に係る本件建物3を共同で占有し、被告一郎の承諾を得て、丙田の建築に係る前記建物を取り壊して本件土地上に本件建物9を建築し、これを共有している。
(三) 被告一郎による本件土地のうちの北側部分の使用状況
(1) 被告一郎は、昭和五三年七月一四日、乙原工務店に対し、本件土地のうちの北側部分の約九五坪を一時使用の目的で、賃料は月額一五万円、期間は同年七月末日から二年間、賃借地上の建築物は簡易で除去が容易なものとするとの約定で賃貸した。そして、乙原工務店は、右賃借後、右土地上に本件建物4ないし8を建築した。
(2) 被告一郎は、乙原工務店との間で、昭和五五年七月五日、賃貸借面積を約一〇〇坪、賃料は月額二五万円、期間は同年七月末日から二年間として、右(1)の賃貸借契約を更新し、その後右賃料は、同五七年七月末日からは月額二八万円、同五九年七月末日からは月額三〇万円へと増額された。乙原工務店は、昭和六一年三月ころ、被告一郎に対し、本件建物4ないし8を贈与し、右の借地を返還した。
(3) 被告一郎は、昭和六一年四月二三日ころ、訴外株式会社甲山堂(被告戊田の親会社)に対し、本件建物4ないし8を、賃料は月額四〇万円、期間は三年間との約定で賃貸した。
(4) 被告一郎は、平成元年四月二二日ころ、被告戊田に対し、本件建物4ないし8を、賃料は月額四六万円、期間は同月二三日ころから三年間との約定で賃貸し、同四年四月二二日ころ、賃料は月額五五万円、期間は同月二三日ころから三年間と改めて、右賃貸借契約を更新した。被告戊田は、右賃借後現在に至るまで本件建物4ないし8を占有し、本件土地上に本件建物10を建築し、これを所有している。
(四) 被告一郎による第四建物部分の使用状況
被告一郎は、不動産業を営むようになった昭和四八年九月ころから、第四建物部分を事務所として使用し始め、その後現在に至るまで第四建物部分を占有している。
(五) 被告一郎による第五土地の使用状況
(1) 被告一郎は、昭和五〇年三月ころから同五六年二月ころまで、乙野工芸社に対し、第五土地の一部及びこれに隣接する東京都世田谷区《番地略》の一部の合計約五七坪を賃貸していた。
(2) 被告一郎は、昭和五六年三月一日ころ、右の賃貸範囲を増加して、第五土地の全部(その一部は駐車場となっている。)及び一三番二の土地の一部とした上、右各土地及び地上の建物(ビニールハウスの温室)を、乙野工芸社に対し、一時使用の目的で、賃料は月額合計二一万円、期間は同年三月一日から二年間との約定で賃貸し、その後右賃貸借契約を更新して現在に至っている。そして、右賃料は、昭和六三年三月からは月額二三万五〇〇〇円、平成二年三月から月額三〇万円、同四年三月から同五年七月末日までは月額三五万円へと増額された。
(六) 被告一郎による第六建物の使用状況
(1) 被告一郎は、昭和四九年ころ、丙山に対し、第六建物を賃貸し、その後右賃貸借契約を更新して現在に至っている。
(2) そして、右賃貸借契約における賃料は、昭和五八年四月からは月額六万円、同六〇年四月からは月額六万五〇〇〇円、同六二年四月からは月額六万八〇〇〇円、平成元年四月からは月額七万三〇〇〇円、同三年四月からは月額七万八〇〇〇円、同五年四月から同七年四月一三日までは月額八万一〇〇〇円へと増額された。
(七) 太郎及び原告竹子の被告一郎の使用状況に対する対応
太郎及び原告竹子は、昭和四九年ころから被告一郎が太郎遺産土地等の使用収益をしていることを知っていたが、その当時被告一郎は婚姻をした直後で安定した収入もなかったため、これを黙認し、以後太郎が死亡した同五七年ころまで、被告一郎に対し、本件土地上の本件各建物の収去、本件土地及び第四建物部分の明渡し、第五土地及び第六建物の使用収益の禁止などを要求したり、被告一郎の太郎遺産土地等の使用状況に対して異議を申し入れたことは、全くなかった。
2 被告一郎の使用貸借の抗弁1について
右1に認定のとおり、被告一郎は、昭和四九年ころ以降に本件土地を乙原工務店や丁野建設に賃貸するに際しては、一時使用かつ簡易で除去が容易な建物の所有を目的としていること、被告一郎は、同六一年に至り、乙原工務店及び丁野建設らが建築した本件各建物の所有権を贈与及び裁判上の和解によって取得したこと、また、第五土地上には、ビニールハウスの温室が建築されているにすぎないことなどから明らかなように、被告一郎は、昭和四九年秋ころの時点では、自ら本件土地及び第五土地上に建物を建築してころを将来長期間にわたり使用収益するような意図及び計画を有しなかったことが推認される。そして、被告一郎の抗弁1の主張を裏付けるに足りる使用賃借契約書その他の書面も存在しない。
以上の点に照らせば、被告一郎の使用貸借の抗弁1の主張は採用することができないし、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
3 被告一郎の使用貸借の抗弁2について
前記1に認定のとおり、被告一郎は、昭和四八年九月ころから不動産業を始め、同年一〇月に婚姻し、実家を離れて独立した生活を始めたが、その当時は安定した生活費を得るのが困難であったため、そのころから太郎遺産土地等の使用収益を開始し、その収益を生活費などに充てていたこと、太郎及び原告竹子は、被告一郎が太郎遺産土地等の使用収益をしている事実を知りながらこれを黙認し、同四九年ころから太郎が死亡した同五七年ころまで何らの異議も申し入れなかったことなどが明らかである。右の諸点を総合すれば、昭和四九年ころ、太郎と被告一郎との間に、被告一郎が太郎遺産土地等の使用収益により生活費を得ることを目的として、太郎遺産土地等を太郎が被告一郎に無償で貸し付ける旨の黙示の合意(本件使用貸借契約)が成立した事実が推認される。
したがって、被告一郎の使用貸借の抗弁2は、正当である。
六 本件解約(原告らの再抗弁)について
1 前記二及び五1に認定のとおり、(1)被告一郎は、昭和四九年から本訴が提起された平成六年三月まで、既に約二一年もの長期間にわたり、無償で太郎遺産土地等の使用収益を継続していること、(2) その間、被告一郎は、本件土地に対する公租公課を全く支払っていないこと,(3) 被告一郎は、本件各建物の建築について格別の費用を負担していないこと、(4) 太郎が昭和五七年八月二〇日に死亡して、現在では、その遺産分割も終わり、太郎遺産土地等の所有権は被告一郎以外の他の共同相続人に帰属することが確定したこと、などが明らかである。また、《証拠略》によれば、被告一郎は、宅地建物取引業を営むための免許を申請するに際し、平成六年四月五日現在、一億二〇〇〇万円の現金及び預金、二〇〇〇万円の有価証券、一〇億円の無形固定資産など不動産以外の資産のみでも合計一一億四〇〇〇万円の資産を有する旨の申告をしていることも認められる。
右の諸点に照らせば、本件使用貸借契約における「被告一郎が太郎遺産土地等の使用収益により生活費を得ること」という目的に従って被告一郎がその使用収益をなすに足るべき期間は、平成六年三月ころまでには、既に経過したものというべきである。
2 原告らが、被告一郎に対し、平成六年三月八日に到達した本件訴状により本件解約の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。
3 そうすると、本件解約の意思表示により本件使用貸借契約について平成六年三月八日に解約の効力が生じたから、原告らの再抗弁の主張は正当である。
七 小括
1 以上のとおり、原告らの、(1) 被告一郎に対する本件各建物収去・本件土地明渡し、(2) 被告丁原らに対する本件建物1ないし3退去・本件建物9収去、被告戊田に対する本件建物4ないし8退去・本件建物10収去の各請求は、いずれも理由がある。
2 また、原告竹子の、被告一郎に対する第四建物部分の明渡請求も理由がある。
八 本件土地に関する被告一郎の不当利得など(請求原因4)について
1 主位的請求原因(本件土地について使用貸借契約が存在しないことを前提とする不当利得返還の請求原因)について
原告らの右主位的請求は、本件土地について使用貸借がないことを前提とするものであるが、本件土地について本件使用貸借契約の存在が認められることは前記五3のとおりであるから、右主位的請求は、その前提を欠くものであって、理由がない。
2 予備的請求原因(本件土地について本件使用貸借契約が存在することを前提とする賃料相当損害金等支払の請求原因)について
(一) 本件解約の日である平成六年三月八日以前の本件土地の通常の必要費について
(1) 使用貸借契約における借主は、借用物の通常の必要費を負担する義務を負うところ(民法五九五条一項)、不動産の使用貸借の場合、その公租公課は、特段の事情のない限り右の通常の必要費に属するものと解するのが相当である(最高裁昭和三三年(オ)第三一〇号同三六年一月二七日第二小法廷判決・裁判集民事四八号一七九頁参照)。
(2) ところで、前記五1の(二)及び(三)の認定事実から明らかなように、被告一郎は、本件土地の使用収益により、昭和五八年及び同五九年はそれぞれ年額約五四〇万円、同六〇年は年額約五六四万円、同六一年は年額約六八四万円、同六二年及び同六三年はそれぞれ年額約七二〇万円、平成元年及び同二年はそれぞれ年額約一五一二万円、同三年は年額約一五六〇万円、同四年は年額約一六六八万円、同五年及び同六年はそれぞれ年額約一七一六万円の賃料等の収入を得ていた。これに対し、《証拠略》によれば、昭和五八年分から平成六年三月七日分までの本件土地の固定資産税及び都市計画税の合計額は、別表3記載のとおり合計一〇九〇万七四五六円であることが認められる。そして、右の税金の額は、被告一郎が取得した前記年間賃料等のわずか三・六九パーセント(昭和五八年分につき)ないし一一・三六パーセント(平成五年分につき)に相当するものであるにすぎないし、被告一郎は前記特段の事情についての主張及び立証をしない。これによれば、右の税金は、民法五九五条一項所定の本件土地についての通常の必要費に該当するものというべきである。
(3) したがって、原告らは、被告一郎に対し、民法五九五条一項に基づき、前記の一〇九〇万七四五六円(共有持分割合に応じた金額は、原告甲野及び原告竹子について各三二七万二二三六円、原告乙山及び原告夏子について各二一八万一四九一円である。)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年三月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(二) 平成六年三月九日以降の本件土地の賃料相当損害金について
(1) 本件解約により本件使用貸借契約が終了した日の翌日である平成六年三月九日以降の被告一郎の本件土地の占有は、権原に基づかないものであるから、原告らは、被告一郎に対し、本件土地の賃料相当損害金の支払を求めることができる。
(2) そして、《証拠略》によれば、本件土地の相当賃料額は、別表4の「一ヶ月あたりの額」の欄に記載の額を下回るものではないことが認められるので、平成六年については月額一〇一万七三九六円、同七年については月額九九万一五〇〇円、同八年については月額九五万五六五二円とするのが相当である。右によれば、平成六年三月九日から同八年五月三一日までの間の本件土地の賃料相当損害金は、別表4の「賃料相当損害金の額」の欄に記載のとおり合計二六五八万七六七一円となる。
(3) したがって、原告らは、被告一郎に対し、右の二六五八万七六七一円(共有持分割合に応じた金額は、原告甲野及び原告竹子について各七九七万六三〇一円、原告乙山及び原告夏子について各五三一万七五三四円である。)及びこれに対する平成八年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに平成八年六月一日から本件土地の明渡し済みまで月額九五万五六五二円の割合による賃料相当損害金(共有持分割合に応じた金額は、原告甲野及び原告竹子について各月額二八万六六九五円、原告乙山及び原告夏子について各月額一九万一一三〇円である。)の支払を求めることができる。
(三) 以上のとおり、原告らの前記予備的請求は、すべて理由がある。
九 第五土地及び第六建物に関する被告一郎の不当利得(請求原因6)について
1 第五土地に関する不当利得について
被告一郎が第五土地を占有していることは被告一郎と原告竹子との間で争いがないところ、原告竹子は、被告一郎に対し、第五土地についての昭和五九年二月二三日から平成五年七月三一日までの間の不当利得の返還を請求する。しかしながら、被告一郎は昭和四九年ころから平成六年三月八日まで本件使用貸借契約に基づいて正当に第五土地の使用収益をしていたものであるから(前記五3及び六参照)、前記不当利得の返還請求権は発生しないことが明らかである。
したがって、原告竹子の右不当利得返還請求は、理由がない。
2 第六建物に関する不当利得について
被告一郎が第六建物を占有していることは被告一郎と原告竹子との間で争いがないところ、原告竹子は、被告一郎に対し、第六建物についての昭和五九年二月二三日から平成七年四月一三日までの間の不当利得の返還を請求する。
ところで、被告一郎は昭和四九年ころから平成六年三月八日まで本件使用貸借契約に基づいて正当に第六建物の使用収益をしていたものであるから(前記五3及び六参照)、右の期間については、右不当利得の返還請求権は発生しないことが明らかである。
しかしながら、平成六年三月九日以降の被告一郎の第六建物の占有は、権原に基づかないものである。そして、前記五1(六)に認定した事実及び弁論の全趣旨によれば、被告一郎は、これを丙山に賃貸し、原告竹子の損失においては、少なくとも、別表5の番号欄11に記載のとおり、平成六年三月九日から同七年四月一三日までの間に合計九一万一八五七円の賃料に相当する利得を得たことが認められる。
したがって、原告竹子は、被告一郎に対し、不当利得返還請求権に基づき、右の九一万一八五七円及びこれに対する原告竹子が被告一郎の右不当利得の返還を請求した後である平成七年四月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
3 以上のとおり、原告竹子の被告一郎に対する不当利得返還請求は、九一万一八五七円及びこれに対する原告竹子が被告一郎の右不当利得の返還を請求した後である平成七年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当である。
一〇 結論
以上によれば、原告らの本件各請求のうち、被告一郎に対する本件各建物収去・本件土地明渡し、被告丁原らに対する本件建物1ないし3退去・本件建物9収去、被告戊田に対する本件建物4ないし8退去・本件建物10収去の各請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、被告一郎に対する本件土地についての主位的請求(不当利得返還請求)は理由がないからこれを棄却し、予備的請求(賃料相当損害金等支払請求)は理由があるからこれを認容し、また、原告竹子の被告一郎に対する本件各請求のうち、第四建物部分の明渡請求は理由があるからこれを認容し、不当利得返還請求は、九一万一八五七円及びこれに対する平成七年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九〇条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上繁規 裁判官 横溝邦彦 裁判官 市川智子)